しとしと雨の降るどんよりした朝も、出発する頃には太陽が顔をだして、雨水をたっぷりと含んだ八ヶ岳は眩いばかりの緑に輝いていた。
ペンションで熟睡して、野菜たっぷりの朝食を食べて、コンディション抜群の僕はとても上機嫌になり、珍しく鼻歌など歌いながら竿を片手にお馴染みの沢をゆっくりと歩いた。車止めからすぐの場所で魚影は薄いだろうと思ったが、予想に反して魚の出がすこぶる良く、1時間足らずで良型の天然岩魚が7、8匹釣れた。
朝食後、ペンションの窓から。
対岸の朽ちかかった柳の木にヌメリスギタケを見つけた。それからは岩魚よりもキノコ探しが優先した。注意深く木々を見ていくとポツリポツリあった。今シーズン初のキノコで、魚籠が岩魚とキノコで一杯になり、僕はますます上機嫌になった。
当初のお目当ては、岩魚でもキノコでもなくイタドリだった。この沢沿いには本当に沢山のイタドリが生えているのだ。旬はもう過ぎているが、この辺りは標高が1500mほどあり、それで6月でも食べ頃のイタドリが採れるのだ。
リュック一杯にイタドリを採って、キノコという思わぬ収穫もあって、一人大笑いしながら車に戻った。
午後からは場所を移動して、最もお気に入りの渓で釣りをした。
ここは16年前に初めて師匠にイワナ釣りを教えてもらった場所。その日以来僕はすっかりイワナ釣りに狂ってしまった。毎年シーズンになると何度もこの渓に足を運んでいて、通算すると150回を超えるかもしれない。
釣り始めて30分、魚籠には4匹のイワナが収まっていた。この調子なら20は行けるぞ、と思わず気合いが入った。
ふと、対岸に茶色で小さな動物が動いた。野ネズミだった。フサフサの毛並みで黒い目をパチクリさせて、長い尻尾をフリフリ苔むした岩の上を歩いていた。色といい動きといい、まるでハムスターそっくりだ。
そのハム助、しばらく僕と同じペースで、本当に不思議なくらい同じペースで対岸をちょろちょろ登っていった。こちらの気配を全く感じていない様子なので、ちょっと声をかけてみた。
「おいハム助、お前なかなかカワイイじゃんよ。一人で何してんだ?」
全然こちらを見向きもせず、岩の上をちょろちょろとしている。
急にいたずら心が芽生えた。
「釣れるかな・・・?」
ニヤニヤしながら毛鉤をハム助の前に垂らしてみる。何度か髭に触れたようで、そのたびに首をクルクルッと回した。面白くなった僕は、ハム助の頭上を毛鉤でグルグルとやってみた。”あれ〜なんか変だぞ〜?”みたいな反応をして、それが非常に面白くて大声で笑った。
「ヤアッ、オイ、ホレホレ〜ッ♪」
てな具合に、すっかり調子に乗って毛鉤をグリグリと動かしていると、どこかに掛かった。アワセはとらずそのまま竿を立てる。竿が軽くしなり、ラインの先で大きく口を開けたハム助がジタバタと手足を動かした。いつものクセで?すばやく竿を仕舞いこみ手元に寄せようとした。
「ポチャン。」
バレて流れに落っこちた。
慌てふためいた様子でパチャパチャと泳ぎ、しばらく流されてから瀬尻の石によじ上った。私もすかさず後を追い、石の上でウロウロしているハム助を捕まえた。しかしハム助もさすがに身軽で、手のひらから抜けだして対岸の岩の隙間に逃げ込んだ。が、よく見ると、岩と岩の隙間を抜けようとして首から下が引っかかっているではないか。
頭のほうから捕まえようとすると、うにょ〜っと頭を引っ込めて、逆にお尻のほうから捕まえようとすると、再びうにょ〜っと頭を出す。
「あはは〜ッ、お前バカな奴だなぁ〜!」
あえなくハム助は捕らわれの身となった。
全身びしょ濡れのハム助は、フサフサの毛のときと比べて実に情けなく見えた。
「お前、すっかりズブヌレネズミだなあ〜。ワッハッハ〜!!」
明るかった空はいつの間にか薄暗い雲に覆われ、渓の中が急に暗くなって、遠くでは雷がごうっと鳴った。一昨日に蓼科で、雷と同時に季節外れのヒョウなんかが降ってきて度肝を抜かしたばかりだった。
まもなくして、雷の轟音と共に大粒の雨が降ってきた。竿をたたんで車に逃げ込む。それとほぼ同時に再びヒョウが激しく降り、フロントガラスを激しく叩いた。


岩の隙間で必死な姿想像するとかわいいです。
今度はクマにトライ!!
え!?クマですか!?!?
新鮮な足跡なら先日新潟で師匠と一緒に見ました。。急斜面の草が不自然になぎ倒されていて、きっとここを降りて来たんでしょうね〜。